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2017年10月13日金曜日

政府・企業の怠慢、若者ギャングの底力

メキシコは、9月に2度の地震に見舞われた。一度目の時には、ちょうど「ストリートチルドレンを考える会」のスタディツアーを率いて、現地のホテルに滞在していた。夜中の12時まえに突然、ゆっくりと床が左右に揺れ始め、欠陥建築が多い国の地震に、さすがの私も一瞬緊張した。が、幸い、メキシコシティでは大きな被害はなかった。そして19日、私が篠田とキューバ取材に出た翌日、ちょうど32年前に首都を大地震が襲ったのと同じ日に、2度目が起きた。

友人たちの証言から想像すると、今度は恐らく日本で言うところの震度5前後の揺れだったのではないかと思われる。もともと湖の上につくられた街であるメキシコシティにおいては、特に地盤の悪い地域に立つ古い建物や、建築基準を守っていなかった住宅、アパートなどが、複数倒壊した。日本ならば、恐らく建物が倒れることはなかっただろう。自然災害の裏に、人的災害が見えた。

メディアは、子どもの犠牲を出した私立学校や、まだ建てられて1年も経たないマンションの倒壊などが、許可なく建てられた違法建造物や手抜き工事などに因ると書いた。その証拠を探るために、建築許可書の提示を求める記者たちに、役所は「証拠隠滅」で応じた。建設業界と役人の癒着が見え隠れする。

麻薬戦争を通してすでに、この国の人権無視の実態は暴かれているが、大地震は改めて問題の根深さを物語った。

その一方で、社会が「怠慢で何もしない」と批判的に見ていた若者たちが、誰に指示されるでもなく、率先して被災者の救出作業に向かい、救援物資を集め、各国からの救助隊や政府の支援がなかった遠隔地にまで出向いて、絶望の縁にいる人々を支えている。そのなかには、ふだんスラムでケンカや麻薬売買などに関わっているギャング青年たちもいた。

「本当は皆、人のためになることをしたいんだよ。そんな連中が仲間と、手元にあったシャベルなんかを手に、次々と倒壊現場へ駆けつけた。そして、瓦礫の下から人を助けたんだ」。
メキシコシティを中心にかつては700人の子分を率いていたギャングリーダーは、仲間の奮闘ぶりをそう語った。メキシコ人としてやるべきことをやらねば、と、若者たちは奮起した。

「この国の若者は本来、責任感が強く、互いに支え合うべきだという意識を強く持っている。それを生かせる環境を、社会は与えてこなかった。そんな場が現れたとき、彼らはしぜんに自分たちの果すべき役割を担ったのさ」
救援物資を若者たちとともに遠隔地に運び、配給するのと同時に、復旧作業を手伝うプロジェクトを動かすカルロス・クルスは、彼がつくったNGOの事務所で物資を仕分けし、トレーラーに積み込む学生やギャングの姿を、頼もしそうに見つめていた。彼も若い頃は、ギャング団のリーダーだった。今は、次世代の子ども・若者たちに、非暴力と平等、社会参加を促す活動をする。救援物資を運ぶトレーラーも、ボランティアの若者たちが乗る大型バスも、彼が企業と交渉して無料で手に入れた。

政府や企業の怠慢と、ギャングをはじめとする若者たちや元ギャングの底力が、メキシコが抱える問題と希望、両方を映し出していた。

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