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2021年1月21日木曜日

パンデミック下のメキシコで 5)保育園を守る女性たち

 メキシコシティ旧市街の市場と露店街で有名なカンデラリア・メルセー地域で、彼女たちは保育園を続けている。公教育省の指示で現在、教育機関は全て休園・休校となっているが、この保育園は例外だ。

「休園中になかで片付けをしていると、園児たちの親が来て、『いつ再開してくれますか。子どもを預けられないと働けず、生活できないんです』と訴えてきたんです。彼らの大半は、露店商など、毎日働かなければ食べるにも困る貧困家庭です。そこで私たちは、保育を続けることにしました」

 代表のディアナ(48)はそう話す。彼女は実家が自動車修理工場を経営しており、「生活には困らないから」と、開園以来、ずっと無給でこの保育園を運営している。「支えを必要とする子どもや女性らに寄り添う仕事に夢中になっているうちに、結婚しないまま歳をとってしまったわ」と笑う。

 彼女とともに働く3人の保育士と調理係の女性も、それぞれメキシコ社会が抱える問題と向き合いながら、保育園を守っている。

 月曜から金曜までの毎日、30人余りの子どもたちの朝食と昼食を調理しているのは、ラウラ(40)。5歳から路上生活をしていた元ストリート少女だ。彼女は、生まれて間もなく他人の家に預けられ、そこで性的虐待を受けたために家を飛び出し、路上生活を始めた。その後、16歳で路上少年との子どもを妊娠し、シングルマザーとなる。貧困生活や薬物依存に苦しむが、母子支援施設で出会ったディアナに誘われ、この保育園で働くようになって以来、薬物をやめて、娘二人と安定した暮らしを営めるようになった。今は保育園の子どもたちが自分のような人生を送らなくてすむよう役に立てることを、誇りに感じている。

 保育士の中で一番若い、17歳のリッツィ先生は、ディアナらの助けで娼婦をやめ、新たな人生を手に入れた女性の娘だ。過酷な人生を送ってきた母親の変化を見ながら育ち、オンライン学校で補助教員の資格を得て、母や弟妹が世話になった保育園の保育士になった。

 ベレニーセ先生(37)は、以前は午後2時すぎには終わる普通の保育園で働いていたが、ディアナの呼びかけに応えて、ここで働くようになった。自身も貧困家庭の出身で、保育園のすぐ近くに住んでいる分、園児たちの気持ちや親の事情をよく理解しているから、この仕事を引き受け、のめり込んでいる。

 保育士のまとめ役であるマリベル先生(51)は、高等専門学校でコミュニティ・エデュケーターの資格を取り、夫とともに先住民コミュニティ支援をしてきた。そのスキルを活かし、ディアナの右腕として活躍している。パンデミックのせいで、保育園の運営資金が足りなくなった際は、彼女と夫がメキシコシティ政府が提供している補助金に申請し、支給されたお金を保育園のために使った。

 彼女ら5人が力を合わせ、たとえピンチに陥っても悲観的にならず、あの手この手で問題を解決していくおかげで、子どもたちは、1日中、親が露店商売をしている路上で過ごすことも、家でお腹をすかせて待つこともなく、安心して日々を過ごしている。

 深刻なコロナ感染拡大の続くメキシコシティに生きる、強く、優しく、ラテン的楽観主義を身につけた女性たちの活躍に、大いに励まされる。


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