このブログを検索

2021年1月16日土曜日

パンデミック下のメキシコで 4)新しい施設、古い絆

「そちらから施設に来るには、街の端から端まで移動しなければならないので、この時期(メキシコシティは感染拡大状況が一番深刻な「赤信号」ステージに入っていた)に来てもらうのはリスクが高く、申し訳ない。またの機会で結構です」

 寄付を届ける約束をしていた日の数日前、広報担当の女性から、そんなメールが来た。その前日、メキシコシティが赤信号に入ったからだ。しかし、私たちは「二重マスクとアルコール消毒!」で取材を続けていたうえ、2020年に遂に引越しを完了したという新しい施設がどんな所なのか知りたいし、古くからの知り合いであるスタッフの顔が見たいと思っていたため、訪問にこだわった。そして、何とか叶うことに。

 当日は、比較的すいているバス一本で、あと1キロちょっとという所まで行き、約束の時間が迫っていたので、タクシーに乗った。Google Mapで見ながら走ると、タクシーの運転手が、「ここじゃないですか?」と、豪邸の正面玄関のように大きく立派な門の前で車をとめる。降りて、受付に訪問目的を告げると、扉が開かれた。

 こちらも「オガーレス・プロビデンシア」の事務所入り口同様に、手のアルコール消毒、検温、脈拍数&血中酸素量の測定、そして全身に霧のような(次亜塩素酸?)除菌剤を吹き付けるという念入りな感染予防策が取られている。すべてクリアすると、メールを送ってきた若い女性、カルラが迎えにきた。

「ようこそ!」

 彼女が出てきた建物は、門からかなり先にある。入ってすぐのスペースはコンクリート敷の広場で、明るい日差しのもと、いくつか丸テーブルと椅子が置かれている。そのひとつでは、カウンセラーらしきスタッフが子どもと話をしていた。広場の奥には、丸い中庭を中心に半円形の3階建て建物がふたつ、左右に建っている。手前部分が事務所で、奥が子どもたちが生活するスペースだという。しゃれた美術館か図書館のような建物は、予想以上に立派なものだった。

 この新施設は、2010年に都心にあった施設が火事で一部焼失して以来、ずっと建設を計画していたものだ。私たちの会も、火事の直後に再建のための寄付を送った。それから少しずつ資金を集めて実現にこぎつけたわけだ。だが、建物自体はもう2年前には完成していたにもかかわらず、実際に利用を始めるのが2020年になったのは、地元の役所が、オープンに必要な書類手続きをなかなか進めてくれなかったせいだという。賄賂を払えばすぐにしてやると言われたが、代表のソフィーアが断固拒否したため、今になってしまったというわけだ。

 カルラの案内で、まずはスポーツジムやパソコンルームなど、様々な財団の寄付でつくられた特別な部屋を見て回る。その後、中庭から子どもたちが住んでいるスペースへ。門から見て右手にある建物には少女たち、左手にある建物には少年たちが暮らす。今回は、子どもたちと直接は接触できない規則だったので、半円形の施設に沿って中庭をぐるりと歩く。すると、3階建の施設の1階に住む子どもたちが、窓から私たちの姿を見つけて手を振ってくれた。なかには、「リツーコ!」と私の名前を叫ぶ子も。8月にオンライン交流をした時の参加メンバーや、2019年にスタディツアーで訪れた時からこの施設に暮らす子どもたちだろう。

 それからさらに、調理室と事務所へ。そこにはもう20年以上前から知るスタッフが待ち受けており、私たちの顔を見るなり、「よくきてくれたわね!今年会えるとは思いもしなかった!」と、マスク越しの笑顔を見せてくれた。

 最後に会ったのは、一番の古株で互いにずっと若い頃から知っている、プログラムディレクターのアレハンドロだ。彼は一時、この団体を離れていたが、やはり「ここが居場所」と思ったのか、1年半くらい前に復帰した。

「こんな時にも、いつものように顔をあわせることができて、うれしいよ」

 8月にオンラインで会った時と異なり、マスク付きとはいえ目の前で話ができたことに、互いに笑みがこぼれる。

 このあと、会からの緊急支援金をカルラに渡し、領収書と子どもたちが作ったクリスマスカードや絵をプレゼントされてから、2時間を超える訪問を終えて帰路に着いた。この日、新しい素敵な施設で再確認した古い絆は、パンデミックが去った後も、ずっと大切にし続けたい。


0 件のコメント:

コメントを投稿