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2021年1月12日火曜日

パンデミック下のメキシコで 3)ストリートエデュケーターと

 メキシコシティの路上を巡り、そこに暮らす子どもや若者たちの声に耳を傾け、彼らが路上生活を抜け出す支えとなってきたダビッは、NGOの「ストリートエデュケーター」。所属するNGOは変われど、約18年間、その活動を続けている。その彼と、2020年12月はじめ、メキシコシシティの中心部にある地下鉄イダルゴ駅の近くで待ち合わせた。

「もう2ヶ月くらい、直接は会っていないんだ」

 パンデミック以前は、毎週のように訪ねていた路上の友人たちとは今、SNSでやりとりをしていて、体調が悪いなど、直接会う必要性が高い時しか、顔を合わせていないという。

「彼らが新型コロナに感染している可能性があるから、というよりも、混み合う地下鉄やバスに乗ってここまで来る僕たちストリートエデュケーターが、彼らを感染させる危険の方が高いからだ。僕たちにとっても、公共交通機関での通勤が一番の不安なので、NGOとしては基本的にストリートエデュケーションを普段通りに続けることは、許可していないしね」

とはいえ、ダビッは、どうしても必要と考えれば、地下鉄などの混み具合をみながら、子どもたちが暮らす場所へと駆けつける。この日は、私たちのリクエストに応えて、都心のいつも行く場所を一ヶ所、ともに訪ねた。

「僕の印象では、路上生活を続けている彼らの間では、コロナ感染はあまり広がっていないようだ。おそらく、いつも同じ集団で野外にいて、他の人間との接触は少ないし、今は彼らがいる裏通りなどの人通りも少ないからだろう」

歩きながら、そんな話をしてくれる。

最初に会った少女は、マスクをして、通り沿いの壁にもたれかかって座っていた。「久しぶり!」と、ダビッと互いに挨拶をすると、近くにいたパートナーの青年も寄ってきた。彼はマスクをしていないのを見て、ダビッが「君だけがマスクをしているんだね!」と少女に微笑みかけると、青年は慌ててズボンのポケットから布マスクを取り出してつける。

立ち話をしている私たちのところへ、何人かの若者が挨拶に来て、ダビッの訪問を喜ぶ。ダビッは雑談をしながら、彼らにマスクを配る。世間から白い目で見られ、大抵は親や家族からも見放されている彼らにとって、ダビッはいざという時に頼れる兄貴かオジのようなものだ。

彼らの多くは、このまま路上生活を続ける可能性が高いが、ダビッは決して彼らを見捨てはしない。

「そういえば、先週、〇〇に会ったよ。すっかり美人になって、頑張っているよ」

 話しかけてくる若者たちに、スマホを取り出し、路上生活を抜け出して薬物依存克服プログラムに入り、新たな人生を歩もうとしている仲間の少女の写真を見せる。すると、青年の一人が、「よかった!俺からのビデオメッセージを送ってくれよ」と言って、ダビッのスマホに向かって語りかけた。

「君が元気になって、嬉しいよ。僕たちは大丈夫だから、ぜひこのまま頑張って、いい人生を歩んでくれ。二度と、ここへ戻ってきちゃダメだよ」

ダビッによると、このあたりにいる子ども・若者たちの間では、最近、クリスタルと呼ばれる覚せい剤の一種が広まっているそうだ。販売と消費、両方に関わる者もいるという。あらゆる辛い記憶や日々の体験を忘れ、路上生活を続けていくために薬物を使うことを覚えた子ども・若者は、それで日銭も稼ぐようになり、依存から抜けられなくなる。30年前、ストリートエデュケーターは、そうなる前に路上を脱出させることを目標に活動していたが、今では状況がより厳しくなった。それでも100パーセント不可能ではない。ダビッはそう信じているのだろう。

路上訪問の後、私たちは、ダビッと彼の同僚ストリートエデュケーターを伴い、自転車を二台、買いに行った。「自転車があれば、コロナ禍でも、バスや地下鉄を使わずに、できるだけ多くの子どもたちの元へ行ける」というダビッたちからの要望を受けて、私たちがボランティアで運営する「ストリートチルドレンを考える会」が寄付することにしたからだ。

「好調だよ」

2021年早々、自転車とダビッと子どもたちが写った写真が、SNSで送られてきた。自転車に乗ったストリートエデュケーターが、パンデミック下、彼らの訪問を待つ子どもや若者の元へと走る。

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