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2019年7月3日水曜日

消滅するはずだった資本主義

ある人から、資本主義に関する本が数冊送られてきた。その中で、まず『じゅうぶん豊かで貧しい社会 理念なき資本主義の末路』という本を読んでみた。スキデルスキー父(経済歴史学者)子(哲学者)の著書だ。といっても、彼らを知っていたから最初に手に取ったわけではない。タイトルに興味を持ったからだ。

著者の一人が哲学者であるせいか、禅問答のような文章もあって、スイスイ読めるものではないが、そこには目から鱗的なこと、大いに考えさせられる議論があった。

序論で注目したのは、何と言っても、ケインズは、「資本主義はいずれ消滅する」と考えていたのに、実際にはそうならなかったということ、それがまさに間違いの始まりだということだ。

「ケインズは、資本主義のこの悪癖(自由市場経済は、雇用主に労働時間と労働条件を決める力を与えると同時に、地位を誇示するような競争的な消費をしたがる人々の生来の傾向に拍車をかけるという悪癖)をよく知ってはいたが、富の創造という本来の任務が終われば、資本主義は消滅すると考えていた。この悪癖が深く根を下ろし、当初目指した理想を見失わせるとは、予見できなかったのである。」

著者によると、ケインズは、よい暮らしができる豊かさが実現すれば、金儲けや金銭欲のために働くという資本主義的な発想は、社会的に容認されなくなるから、資本主義はその任務を終えて、自然消滅するだろうと考えていたそうだ。倫理的に考えて、ある程度、よい暮らしができるようになった人間は、お金を稼ぐことではなく、もっと別のことに時間やエネルギーを使うのが、人としてしぜんだろう。ケインズのそんなつぶやきが聞こえる気がする。

この本は、最終章で、「物質的な幸福の実現に必要な労働量が少なくなった社会や経済の姿を描き出そう」と試みている。著者が考えるように、「先進国」の中上流層のように、物質的な豊かさはもうある程度手にしている人たちは、もっと稼ぐことではなく、「真によい暮らし」とは何かを考え、それを社会で実現していくために、時間やエネルギー、愛を注ぐべきだろう。それこそが、まだ物質的に恵まれない人たちを助け、より多くの人に真の幸福をもたらす。そう考えると、現在、「世界を支配している資本主義」は、確かにできるだけ早く消滅しなければならない。